05/資本主義の多様性

比較政治経済分析

鈴木淳平

早稲田大学政治経済学部

2026-11-02

はじめに

先週のRP

TBD

本日の目的と到達目標

目的

先進各国の政治経済のあり方を比較する視座を学ぶ。労使関係に着目した議論としてネオ・コーポラティズム論を紹介し、多元主義・コーポラティズムという2つの類型を学ぶ。また資本主義の多様性論に基づき先進国の経済システムを2つに分類し、それぞれの経済的な影響についての実証研究の知見を紹介する。さらに、日本の政治経済制度の位置付けについて考察する。

到達目標

  1. 多元主義とコーポラティズムの違いを説明できる。
  2. コーポラティズムが各国の経済実績について与える影響について、関連する研究成果を踏まえて議論できる。
  3. 資本主義の多様性論に基づき、先進諸国の資本主義のあり方を2つに分類できる。
  4. コーポラティズム論および資本主義の多様性論における日本の位置付けを議論できる

多元主義とコーポラティズム

クイズ(わせポチ)

教科書に書かれている多元主義とコーポラティズムについて、以下の説明のうち正しいものを全て選んでください。

  1. 多元主義では、利益集団は自由に競争している。
  2. 多元主義では、人々は複数の利益団体に加入することは許されない。
  3. コーポラティズムでは、共通の利益を持つ人々がそれぞれに集団を作り、自由に政治へと働きかける。
  4. コーポラティズムでは労働者は労働組合へと入る義務がある。

労使関係 (industrial relations)

労働者と使用者の関係

  • 資本主義の下での制度を形成し、政策にも影響
    • 使用者…企業の経営を担い、労働者を雇う
    • 労働者…労働を提供して賃金を受け取る
  • 労使関係の2つのモデル
    • 多元主義
    • コーポラティズム

多元主義 (pluralism)

多元主義の概念図

コーポラティズム (corporatism)

コーポラティズムの概念図

コーポラティズムと経済実績

コーポラティズム論の時代背景

フィリップ・シュミッターのコーポラティズム論1

1970年代のスタグフレーション

  • stagnation (停滞) + inflation (インフレ)
  • 先進国間の明暗
    • 多元主義諸国→インフレ率も失業率も高い
    • コーポラティズム諸国→インフレ率も失業率も低い

質問

来年から日本在住者全員の賃金が10%上がることになりました。

  1. あなた自身にとってはどのような影響があると思いますか。
  2. 社会全体にとってはどのような影響があると思いますか。

囚人のジレンマと賃金上昇

囚人のジレンマ (prisoner’s dilemma)

各個人が自分にとって最適な行動を行なった結果、全体としては最適な結果にならない状況

賃金上昇は…

  • 個人的には嬉しい
  • 社会的には嬉しくない
    • 物価高騰と雇用阻害

コーポラティズムは囚人のジレンマを解決

  • 頂上団体が各労組の賃上げ要求を抑制
  • 引き換えに使用者は雇用を維持

ハンプ仮説

ハンプ(こぶ)仮説

資本主義の多様性

資本主義の多様性

Varieties of Capitalism (VoC)

ピーター・ホールとデイヴィッド・ソスキスの提唱1

  • 企業に焦点を当てたアクター中心論
    • コーポラティズム論は労働者に焦点
  • 企業が直面する情報の非対称性
    • 取引における情報量の格差
    • 労働者、投資先、取引先…
  • 対処の仕方に応じて2つの市場経済
    • 自由型市場経済…アメリカやイギリスなどの英語圏
    • 調整型市場経済…ドイツなど大陸欧州

2つの市場経済

自由型市場経済
(Liberal Market Economies: LMEs)
調整型市場経済
(Coordinated Market Economies: CMEs)
原則 市場原理の徹底 非市場メカニズムによる補完
労使関係 流動的 固定的
資金調達 直接金融(株式市場中心) 間接金融(銀行融資中心)
企業統治 トップダウン ボトムアップ
教育制度 統合的 分離的

アンケート(わせポチ)

次のような企業は、LMEsとCMEsどちらの方で成功しやすいと思いますか?

  1. 全く新しいAIサービスを開発するスタートアップ企業
  2. 自動車の燃費を毎年少しずつ改善するメーカー

制度的比較優位

LMEsとCMEsで得意な産業に差

  • LMEs…抜本的イノベーションに強み
    • 機動的な資源配分が可能
    • 例:バイオテクノロジー、IT、半導体
  • CMEs…漸進的な改善に強み
    • 長期的な視点に立った資源配分が可能
    • 例:自動車や機械など製造業

日本の政治経済制度

Think-pair-share (-10分:わせポチ)

以下について考えてみてください。

  1. 日本の労使関係は多元主義とコーポラティズムどちらに近いでしょうか。
  2. 日本の資本主義は自由型市場経済それとも調整型市場経済どちらに近いでしょうか。

労働なきコーポラティズム

政府・官僚と経済団体との密接な関わりの一方、労働組合は分権的かつ弱体で政策決定からは排除

  • 企業別の労働組合が主流
  • 分裂した頂上団体
    • 全日本労働総同盟(同盟)…民間大企業、労使協調路線
    • 日本労働組合総評議会(総評)…国鉄等官公庁、労使対立路線
    • 89年に同盟として統合

CMEとしての日本

ホールとソスキス「日本はCME」

  • 終身雇用と年功序列
  • 協調的労使関係
  • メインバンク制度と系列

批判

  • 大企業ではなく中小企業は?
  • 教育制度は統合的→LMEsに近い
  • アジア型資本主義の存在?
    • 強い国家、大企業中心、弱い福祉

まとめ

本日の目的と到達目標

目的

利益団体を労使関係を中心とした政治経済制度として位置付けた上で検討する。利益代表の制度としての多元主義・コーポラティズムという2つの理念型を学ぶとともに、資本主義の多様性論に基づき先進国の経済システムを2つに分類し、それぞれの経済的な影響についての実証研究の知見を紹介する。さらに、日本の政治経済制度の位置付けについて考察する。

到達目標

  1. 政治経済体制の理念型としての多元主義およびコーポラティズムを比較できる。
  2. コーポラティズムが各国の経済実績について与える影響について、関連する研究成果を踏まえて議論できる。
  3. 資本主義の多様性論に基づき、先進諸国の資本主義のあり方を2つに分類できる。
  4. コーポラティズム論および資本主義の多様性論における日本の位置付けを議論できる

次回までに

事前学習

  • 教科書(第4章、第5章3)を読む。

事後学習

  • 授業資料を見直し、目標到達をセルフチェック
  • Moodle上でのリアクションペーパー入力(木曜日まで)