05/推論としての記述

現代政治分析入門1

鈴木淳平

駒澤大学法学部政治学科

2026-05-19

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今日の目次

  1. はじめに
  2. 推論としての記述
  3. 確率的誤差
  4. 世論調査とバイアス
  5. 操作化によるバイアス
  6. まとめ

はじめに

先週のRPより (1/3)

今回新しく学んだことは、個別的説明(特定の事象の因果関係)、一般的説明(一般的に当てはまる因果関係)の区別で、この二つは数学分野の演繹法と帰納法に類似している点に気づきました。

個別説明の一般化はどこまで抽象的にすれば良いのかが難しかった。

先週のRPより (2/3)

個別説明の構築で駅から駒澤大学に行く道のりが混むのは、大学から駅までが遠いからだというのを一般化すると、目的地までの距離が長いほどひとが集中して混雑が起こる、でよいのか

一般化でインスタの投稿頻度が高いのは、他者からの評価を気にしているからだ。という仮説は、他者からの評価を重視する人ほど、snsでの自己発信が多いと言い換えることはできますか。

個別)2009年の衆院選で自民党が負けたのはリーマンショックによる経済悪化があったからだ。 一般)経済が悪化すると、与党は負けやすい。 ということでよろしいでしょうか。

先週のRPより (3/3)

今回の授業では、個別的説明を一般化して抽象的にすることはでき、理解はできたが、概念化というものについての理解が何となくしか理解できなかった。

講義中の声をもう少し大きくしてもらえると嬉しいです。

本日の目的と到達目標

目的

因果推論の前提となる「記述」について根本的に考える。記述を歪める観測誤差とバイアスについて検討するとともに、計量的手法や質的手法に潜む記述の問題を考察できるようになることを目指す。

到達目標

  1. 「記述には推論としての側面が含まれている」とはどういうことか説明できる。
  2. 真実と観測の差である観測誤差が発生する2つの原因を列挙することができる。
  3. 量的調査で確率的誤差を最小限にすれにはどうすれば良いかを説明できる。
  4. ランダムサンプリングの失敗が世論調査にどのような影響を与えるのか、実際の事例を用いて説明できる。
  5. 一定の質を満たした操作化の方法を考案することができる。

本日の授業の位置付け

推論としての記述

質問

今日の教科書の該当部分(久米第4章)には『記述は推論という性格を持つ』というようなことが書かれて部分がありました。

該当の箇所を探し、どういうことが書かれているか確認してください。

(隣同士で協力してもよいです。)

記述と推論

記述(description)

  • どうなっているのか」を明らかにすること
    • 何かを観測し、その結果を述べる
  • 例:「Aさんの身長を測定した結果、180cmだった」

推論(inference)

  • 知っていること」から「まだ知らないこと」を推測すること
  • 観測結果は真実を全て反映しているわけではない→記述も推論
  • 例:Aさんの身長は180cm→誤差が含まれる

観測誤差 (measurement error)

真の値と観測値の間のずれ

2種類の観測誤差

  • 確率的誤差 (stochastic error)…偶然によって生まれたずれ
  • 系統的誤差 (systematic error)…特定の原因によって生まれたずれ
    • バイアス(bias;歪み)とも呼ぶ
    • 常に特定の方向をもつ→真の値よりも大きいor小さい
    • 社会的望ましさバイアス、サンプリングバイアス、調査設計によるバイアス、操作化によるバイアス…

確率的誤差

質問

あなたは駒大生の高市内閣の支持率を知りたいと思い、キャンパスで偶然出会った10人に高市内閣を支持するか否かを聞きました。

その結果10人中10人が高市内閣を支持すると答えました。

この結果から、駒大生は全員高市支持者だと結論付けてよいと思いますか?それともダメですか?

理由も含めてWebClassチャットに書き込んでみてください。

世論調査 (opinion poll)

内閣・政党・政策に対する市民全体の賛否を測る

  • 市民全員に聞くのが理想→コストが高すぎる
  • ランダムサンプリング…全体(母集団)から一部(標本サンプル)をランダムに抽出
  • サンプルを分析し、その結果から母集団の賛否を推測
  • ただし結果は確率的誤差を含む
    • サンプルは一部が偶然選ばれただけ
    • 結果も偶然そうなっただけかもしれない
    • もし別の人が選ばれていたら違う結果

質問

より正確に駒大生の高市内閣支持を測定するために調査をどうに改善すればいいでしょうか?

WebClassチャット

推測統計学 (statistical inference)

サンプルの性質から母集団の性質を推測する際に用いられる統計学の方法

→基本的にはサンプルサイズを大きくすればよい

  • サンプルサイズ…標本に何人/何個分のデータがあるか
  • サンプル数…データのセットである標本がいくつあるか

大数の法則中心極限定理補足ビデオ参照)

世論調査とバイアス

米大統領選と世論調査

2016年アメリカ大統領選挙

  • ヒラリー・クリントン(民主党)vs.ドナルド・トランプ(共和党)
  • 主要メディアはヒラリーの勝利を予測
  • 結果はトランプの勝利

Q. なぜ世論調査の予測と結果がずれた?

  • トランプ支持の過小評価/ヒラリー支持の過大評価

バイアスに関する説明1

社会的望ましさバイアス (Social Desirability Bias: SDB)

  • 「隠れトランプ」仮説 (shy-voter hypothesis)とも
    • トランプ支持を公言できない雰囲気
    • 世論調査に嘘の回答→トランプ支持を過小評価
  • 政治学では支持されていない

サンプリングバイアス (sampling bias)

  • 社会的属性により世論調査への参加率に差→ランダムサンプリングが機能不全
  • 高学歴層の方が世論調査に参加する傾向
    • 高学歴層→左派/リベラルな価値観
    • ヒラリー支持が過大評価されるバイアス

報道各社の高市内閣支持率(26年3月)

Source

調査設計によるバイアス

各社の支持率の違いは調査設計の違いによる

「重ね聞き」

「どちらでもない」という回答者に改めて聞く

  • 読売・日経・産経はする→支持率が高く出る
  • 毎日・朝日・NHKはしない→支持率が低く出る

操作化によるバイアス

復習:操作化 (operationalization)

抽象的な概念を観察可能な変数を用いて定義し直すこと

  • 測定 (measurement)」とも
  • 例:学力→試験の点数

よい操作化/測定が満たすべき3基準

  • 信頼性 (reliability)…誰が何回やっても同じ結果が出るか
    • 例:レポートを「良い・まあまあ・悪い」で評価
  • 妥当性 (validity)…概念を適切に測定できているか
  • 効率性 (efficiency)…実際に可能かどうか

質問

以下の事例は信頼性と妥当性どちらに問題があると言えるでしょうか。またそれぞれどのように改善できるでしょうか。

  • 事例①:就活生を採用するかどうかを印象だけで決める
  • 事例②:ある国が民主主義か独裁か選挙の有無だけで分類する

WebClassアンケートに入力してください (3-5分)

まとめ

本日の目的と到達目標

目的

因果推論の前提となる「記述」について根本的に考える。記述を歪める観測誤差とバイアスについて検討するとともに、計量的手法や質的手法に潜む記述の問題を考察できるようになることを目指す。

到達目標

  1. 「記述には推論としての側面が含まれている」とはどういうことか説明できる。
  2. 真実と観測の差である観測誤差が発生する2つの原因を列挙することができる。
  3. 量的調査で確率的誤差を最小限にすれにはどうすれば良いかを説明できる。
  4. ランダムサンプリングの失敗が世論調査にどのような影響を与えるのか、実際の事例を用いて説明できる。
  5. 一定の質を満たした操作化の方法を考案することができる。

次回までに

事後学習

事前学習

  • 教科書(久米5章)を読み、WebClass 上でのチェックフォーム記入