10/比較事例分析

現代政治分析入門1

鈴木淳平

駒澤大学法学部政治学科

2026-06-23

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今日の目次

  1. はじめに
  2. 質的研究と量的研究
  3. 差異法
  4. 一致法
  5. 質的研究実践
  6. まとめ

はじめに

先週のRPより (1/3)

生態学的誤謬のところで出てきた、アメリカの政党支持と所得のところがよくわからなかった。ここでは、州別1人あたりのGDPと、大統領選結果の相関関係が成り立っていないということですか?

今回、生態学的誤謬について学びましたが、実際の政治学研究では国レベルのデータしか得られないことも多いと思います。その場合、研究者はどのような工夫によって生態学的誤謬のリスクを減らしているのでしょうか。

先週のRPより (2/3)

観測の単位と分析の単位の違いがまだよくわからない。

分析の単位は基本的に細かくできる限りなるべく細かい方がよいという認識でいいですか?

先週のRPより (3/3)

サンプル選択は因果効果の推定も歪める可能性での、独立変数の値に基づいた場合は問題なしの部分がわからなかった。独立変数で選べば絶対安全(歪まない)ということか。

なぜTOEIC700点以上に絞ると因果効果が過少に評価されるのかよく理解できなかった。

本日の目的と到達目標

目的

少数の事例から因果関係を検証する方法を学ぶ。量的研究と質的研究それぞれの利点と限界を議論するとともに、質的研究の枠組みとして「一致法」と「差異法」を学び、実際に自分で行ってみる。

到達目標

  1. 量的研究と質的研究それぞれの利点と限界を説明できる。
  2. 比較の枠組みとしての差異法の利点と限界を説明できる。
  3. 比較の枠組みとしての一致法の利点と限界を説明できる。
  4. 差異法あるいは一致法に基づく少数事例の比較から因果関係を推論できる。

本日の授業の位置付け

質的研究と量的研究

2つの研究スタイル

量的研究 (quantitative study)

多くの事例を分析

  • 例:1000人の就職データ

質的研究 (qualitative)

少数の事例を分析

  • 例:先輩に就活について聞く

広さと深さのトレードオフ

量的研究 質的研究
外的妥当性 高い 低い
考察 浅い 深い

質的研究の枠組み

ジョン・ステュアート・ミルの比較法

  • 差異法…異なった結果を示す複数の事例を比較
  • 一致法1…同じ結果を示す複数の事例を比較

J. S. Mill (1806-73)

クイズ

以下のような推論はそれぞれ差異法と一致法どちらに基づいているでしょうか。

  1. 中東の産油国はいずれも独裁国家だ。石油の存在は民主主義を阻害するのであろう。
  2. 直近の総理大臣は3人とも自民党の3役(幹事長・政調会長・総務会長)いずれかの経験者だ。総理総裁になるためには3役経験が必要なのだろう。
  3. アメリカは二大政党制でドイツは多党制だが、その原因は選挙制度が異なるためであろう。
  4. 衆院選挙で自民党が勝ち中道が負けたのは、自民の党首が女性だったのに対して中道の党首がおじさん2人だったからだ。

WebClassで回答

差異法

差異法 (method of difference)

異なった結果を示す複数の事例を比較し、その違いをもたらした原因を推論

例:エスピン=アンデルセンの比較福祉国家研究

  • 英語圏・大陸欧州・北欧で福祉のあり方が違うのはなぜ?
福祉のあり方 階級間関係
自由主義
(英語圏)
資本家一強
保守主義
(大陸欧州)
保守派+官僚+管理職連合
社民主義
(北欧)
労働者+農民+中間層連

ワーク

アメリカは二大政党制でドイツは多党制だが、その原因は選挙制度が異なるためであろう。つまりアメリカは小選挙区制、ドイツは比例代表制を採用していることが政党制の違いを生み出している。

この推論を、因果関係の3条件の観点から評価して下さい。

WebClassチャットに入力してください(周りと相談しても可)

差異法の利点と限界

共変関係は確認できている

  • アメリカ:小選挙区→二大政党制
  • ドイツ:比例代表制→多党制

原因の時間的先行も研究設計次第では可能

  • 選挙制度と政党制どちらが先かは微妙
  • 福祉国家論では大丈夫

他の変数の統制がしにくい

  • 米独には選挙制度と政党制以外にも異なる点多数

差異法での変数統制

理論的検討

  • 先行研究で指摘されている交絡変数が効果がないことを確認
    • 例:スレーターのアジア権威主義研究

Most Similar Systems Design (MSSD)

  • 従属・独立変数以外はできるだけ類似している事例同士を比較

自然実験 (natural experiment)

  • 擬似的に実験とみなせるような状況を利用

MSSDの例

福祉国家の発展と労働組合の強さ

福祉国家 労働組合 民主主義 経済発展
スウェーデン 高度 強い 発展 高度
アメリカ 低度 弱い 発展 高度
北朝鮮 きわめて低度 不在 不在 きわめて低度

→スウェーデンの比較相手は北朝鮮よりもアメリカの方が良い

自然実験の例

Posner (2004: 532)

一致法

一致法 (method of agreement)

同じ結果を示す複数の事例を比較し、共通する要因を原因とみなす

例:福祉国家発展の例

福祉拡充度 労働組合
スウェーデン 高度 強い
ノルウェー 高度 強い

共通するパターンの析出に使える

  • 例:ブリントン『革命の解剖』
    • 旧体制の崩壊→権力移行→恐怖支配→反動

ワーク

直近の総理大臣は3人とも自民党の3役(幹事長・政調会長・総務会長)いずれかの経験者だ。総理総裁になるためには3役経験が必要なのだろう。

この推論を、因果関係の3条件の観点から評価して下さい。

WebClassチャットに入力してください(周りと相談しても可)

一致法の限界

共変関係を確認していない

  • この時点で差異法に劣る

原因の時間的先行は研究設計による

  • 福祉発展と労働組合→同時性の可能性

他の変数の統制はしにくい

  • ノルウェーとスウェーデンは同じ値を取る変数が多数
    • どれが本当の要因かはわからない

Most Different Systems Design (MDSD)

できるだけ異なった事例を比較し、その中でも独立変数と従属変数が共通の値を取っていればそれが原因

例:福祉国家発展の例

福祉拡充度 労働組合 経済成長 選挙制度 気候
スウェーデン 高度 強い 高度 比例代表制 寒冷
X国 高度 強い 低度 小選挙区制 熱帯

ただし共変関係の確認はできていないことに注意

質的研究実践

ソロ+ペアワーク (-20分)

ソロワーク(5-6分)…次のテーマから1つ選び、少数の事例を比較して仮説を導いて下さい。

  • テーマ:政治、スポーツ、大学受験、アルバイト
  • 事例は最大3つ(具体的に)、共通点/相違点は何か?
  • 仮説:◯◯なのは〜〜だからである。

ペアワーク(3-4分)…近くでワークシートを交換し、以下についてチェック

共有(2-3分)…WebClassチャット

  • できれば他の人の比較で面白かったものを投稿

まとめ

本日の目的と到達目標

目的

少数の事例から因果関係を検証する方法を学ぶ。量的研究と質的研究それぞれの利点と限界を議論するとともに、質的研究の枠組みとして「一致法」と「差異法」を学び、実際に自分で行ってみる。

到達目標

  1. 量的研究と質的研究それぞれの利点と限界を説明できる。
  2. 比較の枠組みとしての差異法の利点と限界を説明できる。
  3. 比較の枠組みとしての一致法の利点と限界を説明できる。
  4. 差異法あるいは一致法に基づく少数事例の比較から因果関係を推論できる。

次回までに

事後学習

  • 授業資料を見直し、目標到達をセルフチェック
  • WebClass 上でのリアクションペーパー入力(金曜日まで)

事前学習

  • 教科書(久米10章)を読み、WebClass上でのチェックフォーム記入