11/単一事例分析

現代政治分析入門1

鈴木淳平

駒澤大学法学部政治学科

2026-06-30

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今日の目次

  1. はじめに
  2. 仮説演繹法
  3. 政治学の方法論争
  4. 決定的事例分析
  5. 過程追跡
  6. まとめ

はじめに

先週のRPより (1/3)

一致法は「結果が共通する事例から原因を探る手法」であり、差異法は「結果が異なる事例から原因の違いを探る手法」として使い分けられると分かった。

比較事例分析において「差異法」と「一致法」の使い分けが重要だと学んだ。ただ、どちらの手法でも「他の変数の統制」が難しく、因果関係を明確にするには研究設計上の限界がある点も深く理解できた。

先週のRPより (2/3)

一致法の脆さが気になった。一致法は共変関係が確認できないため、場合によっては完全に的外れな推論に達してしまうことがあるのではないか。一致法のほうが優れている点があまりわからなかった。

先週のRPより (3/3)

量的研究と質的研究は、同じテーマで両方使うことはありますか?(参考

自然実験についてほかの例も出してほしいなと思いました。

本日の目的と到達目標

目的

一つの事例から因果関係を検証する方法を学ぶ。研究デザインとしての仮説演繹法を紹介した後、単一事例研究をめぐる論争を概観する。その上で決定的事例研究や過程追跡の考え方を紹介し、単一事例研究の意義と限界を理解する。

到達目標

  1. 仮説演繹法とはどのような方法かを説明できる。
  2. 単一事例分析に着目して政治学の方法論争の内容を説明できる。
  3. 決定的事例研究を用いて因果関係の検証を行うことができる。
  4. 政治学で過程追跡を行うことの意義を説明できる。

本日の授業の位置付け

仮説演繹法

Think-pair-share (-10分)

ある研究者が次のような研究を行いました。

  1. 東大合格者5人にインタビューしたところ、全員が毎日3時間以上勉強していた。
  2. そこで「毎日3時間以上勉強すると東大に合格できる」という仮説を立てた。
  3. その同じ5人を詳しく調べたところ、やはり全員毎日3時間以上勉強していたので仮説は支持されたと結論した。

この研究にはどのような問題があるでしょうか?

WebClassチャット

仮説演繹法

hypothetico-deductive method

社会科学の標準的な研究デザイン方法

  1. 仮説構築…手持ちのデータから帰納的に構築
  2. 観察可能な含意の導出…仮説が正しければ観察されるはずの事実
  3. データの分析…観察可能な含意が実際に観察されるかチェック
    • 仮説構築で使ったデータは使ってはならない
  4. 結論…含意が観察されたら、仮説が正しいと結論

例:選挙制度と政党制

政治学の方法論争

アンケート

あなたはなぜ新興政党が台頭するのかを研究したいと思っています。

以下のどちらの方法を取りたいと思いますか?

  1. 日本維新の会を詳しく分析する
  2. 複数先進国の政党の量的データを分析する

WebClassアンケート

KKV『社会科学のリサーチ・デザイン』1

変数志向型…因果効果の推定が目的

  • 独立変数の変化→従属変数の変化
  • 量的研究の方が質的研究よりも優れている
    • 共変関係を多くの事例で確認

質的研究量的研究と同じ枠組みによるべき

  • 仮説演繹法→仮説を構築し、テストする
  • 複数の事例の比較→共変関係のテスト
    • 一致法ではなく差異法

単一事例分析

KKV「基本的にはやるべきではない」

  • 共変関係が確認できない
  • 仮説構築と検証が分離できない

もしも単一事例を分析するなら…

  • 対象事例を細かく分ける
    • 例:フランス革命→国内の地域や時期を比較
  • 似た事例と比較する
    • 例:フランス革命→ロシア革命や明治維新と比較

質的研究者からの批判

事例そのものが興味の対象になることも

  • フランス革命、ロシア革命、明治維新…

仮説はどのように構築する?

  • 仮説演繹法…構築した後の検証に重点
    • ポパー「インスピレーションによるしかない」
  • →決定的事例研究

理論や仮説の背後のメカニズムは?

  • 例:民主主義が戦争を抑制→なぜ?
  • →過程追跡

決定的事例分析

決定的事例分析

事前の想定とは異なる1つの事例を分析すること

  • 逸脱事例」とも

Most Likely Case Method

その仮説が最も当てはまりそうであるのに当てはまらない事例を示して仮説を否定

  • 例:経済成長と民主主義→中国

Least Likely Case Method

その仮説が最も当てはまらなさそうであるのに当てはまる事例を示して仮説を支持

  • 例:冷戦期の科学者共同体

クイズ

「長く勉強すれば成績が伸びる」という仮説に対して、次の学生4人はMost Likely CaseとLeast Likely Caseどちらに当てはまるでしょうか、あるいは当てはまらないでしょうか。

  • Aさん:1日8時間勉強、成績は124/139位
  • Bさん:1日1.5時間勉強、成績は4/139位
  • Cさん:1日6時間勉強、成績は5/139位
  • Dさん:1日1時間勉強、成績は138/139位

WebClassクイズで回答

決定的事例分析の意義と限界

1つの事例だが比較の含意

  • 最も当てはまりそうなのに当てはまらない→他でも当てはまらないだろう

新たな探究や理論の改善につながる

  • 例:勉強時間が長いのに成績が悪い→何か他の理由が?
  • 例:ダニングのベネズエラ研究→「資源の呪い」論の修正

KKV「厳密な仮説検証にはなっていない」

  • 他の変数の影響や観測誤差、偶然の可能性

過程追跡

Think-pair-share (-10分)

ある研究者が世界各国のデータを厳密に分析した結果、民主主義スコアが1ポイント高くなると、その国の1人あたりGDPが2000ドル上がるという傾向が明らかになりました。

これは統計的因果推論から明らかになった因果効果であり、因果関係の3条件は満たされているものとします。

ではなぜ民主主義は経済発展につながるのでしょうか?

独立変数と従属変数を結ぶ経路を考えてみてください。

WebClassチャット

『国家はなぜ衰退するのか』1

なぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか?

主張「開放的な政治経済制度が国家の経済的発展を促進する」

  • 独立変数=政治経済制度
  • 従属変数=国家の豊かさ
  • 開放的な制度→儲けは自分のもの→勤労意欲やイノベーションの誘因

2つのノガレス

過程追跡と決定的分析

東西欧州の経済格差

  • 豊かな西欧と貧しい東欧

決定的分岐=黒死病(14世紀)

  • 大量死による農民不足
    • 西欧…農民の発言権→包括的制度
    • 東欧…農民の抑圧→収奪的制度
  • 偶然による初期条件の違い
    • 支配階級の強さが若干強いかどうか

まとめ

本日の目的と到達目標

目的

一つの事例から因果関係を検証する方法を学ぶ。研究デザインとしての仮説演繹法を紹介した後、単一事例研究をめぐる論争を概観する。その上で決定的事例研究や過程追跡の考え方を紹介し、単一事例研究の意義と限界を理解する。

到達目標

  1. 仮説演繹法とはどのような方法かを説明できる。
  2. 単一事例分析に着目して政治学の方法論争の内容を説明できる。
  3. 決定的事例研究を用いて因果関係の検証を行うことができる。
  4. 政治学で過程追跡を行うことの意義を説明できる。

次回までに

事後学習

  • 授業資料を見直し、目標到達をセルフチェック
  • WebClass 上でのリアクションペーパー入力(金曜日まで)
    • 量的研究志向(KKV)と質的研究志向どちらに同意するか

事前学習

  • 教科書(久米終章)を読み、WebClass上でのチェックフォーム記入

第13回以降の進行

第13回(7/14)と第14回(7/21)はグループワークが中心のためリアルタイムのオンライン(Google Meet)で開催

  • 来週(第12回7/7)は通常通りなので注意

第15回の授業の方向性(あくまで現時点での予定)

  • 第14回でグループレポートを準備→提出
  • 第15回は課題授業としてリアルタイム授業を行わず、提出されたグループレポートの相互評価に当てる

詳細は後にアナウンスします!