02/国際政治経済学のパラダイム

国際政治経済I

鈴木淳平

学習院大学法学部政治学科

2026-04-20

今日の目次

  1. はじめに
  2. 囚人のジレンマ
  3. リアリズム
  4. リベラリズム
  5. 批判理論
  6. まとめ

はじめに

アンケート

今日の調子はいかがですか?

  1. 良い
  2. まあまあ
  3. 悪い

前回の復習をしてきましたか?

  1. はい
  2. いいえ

先週のRPより

達成目標個数→5人中5人が2個以上

政治学の分野の区分や下位分野の位置付けについてよく理解していなかったので、学べてよかった。今後の履修登録などに活かしていきたい。貿易の経済学や後半の国際収支や為替制度など、経済系の知識があまりないので不安に感じている。

国際政治経済学の定義について、国際関係論を安全保障論とそれ以外を扱う国際政治経済論に分けるものと、前者とそれを含む政治と経済の関わりを扱う後者に分けるものという異なる二つがある点が興味深く感じた。

IPEが経済学ではなく、政治学の分野だったというのが納得であると同時に意外でもあった。…

本日の目的と到達目標

目的

国際社会の構造的特徴を「囚人のジレンマ」として捉えた上で、国際関係論における主要なパラダイムであるリアリズムとリベラリズムを学ぶとともに、両者を批判する枠組みも知る。

到達目標

  1. 「囚人のジレンマ」とは何かを、例を使って説明できる。
  2. リアリズムとはどのようなパラダイムかを説明できる。
  3. リベラリズムとはどのようなパラダイムかを説明できる
  4. 批判理論として位置付けられる2つのパラダイムそれぞれの 内容を説明できる。

本日の授業の位置付け

囚人のジレンマ

囚人のジレンマとは

囚人のジレンマ (prisoner’s dilemma)

各個人が自分にとって最適な行動を行なった結果、全体としては最適な結果にならない状況

2人の囚人の例1

A/B 自白 黙秘
自白 (-5, -5) (0, -10)
黙秘 (-10, 0) (-1, -1)

ナッシュ均衡 (Nash equilibrium)

相手の戦略を前提とした上でどのプレーヤーも自分の戦略を変更することによってより高い利得を得ることができない戦略の組み合わせ

関税ゲーム

A国とB国が関税を導入するorしないを選択

A/B 関税あり 関税なし
関税あり (0, 0) (10, -10)
関税なし (-10, 10) (5, 5)
  1. このゲームで最も望ましい状況はどれか
  2. このゲームのナッシュ均衡になる状況はどれか

アナーキーと囚人のジレンマ

アナーキー (anarchy)

国際社会において主権国家の上に立つ権威が存在しないこと

アナーキーゆえの囚人のジレンマ:

  • 自由貿易がすべての国にとって最適
    • cf. 比較優位モデル
  • しかし各国にとって保護主義の方が利益 →どの国も保護主義を選択

囚人のジレンマを抑制して自由貿易を選択させるには?

  • リアリズム「力によって強制」
  • リベラリズム「条件を変えれば自発的に達成可能」

リアリズム

リアリズムとは

リアリズム(realism)

国際社会がアナーキーであることを強調し、その中で国家は国益と力を追求する競争的な関係にあると主張する考え方

古典的リアリストとしてのトマス・ホッブズ

  • 「万人の万人に対する闘争」

現代リアリズム「囚人のジレンマ的状況において、力による協調の強制が安定をもたらす」

覇権安定理論

覇権安定理論 (hegemonic stability theory: HST)

他国を圧倒する国力を持った国(=覇権国 hegemon)が存在すると国際関係が安定し秩序が形成されやすいとする考え方

チャールズ・キンドルバーガーが代表格1

19世紀から戦後に至る歴史的経緯から着想

  • パックス・ブリタニカの崩壊→世界恐慌と世界大戦
  • 戦後アメリカの台頭 →ブレトン・ウッズ体制

覇権国が国内政治における政府を代替する役割=国際公共財の供給

国際公共財

公共財 (public good)

誰でも消費でき、かつある一人の消費が他の人の消費を妨げない財

  • 国防・治安維持・消防、通貨、裁判⋯
  • 市場では供給されない→政府が提供

国際公共財 (international public good)

公共財の一種で、その便益が国境を超えて広がるもの

  • 国際安全保障体制、通貨システム、貿易ルール⋯
  • 意思と能力を持った覇権国のみが供給可能

リベラリズム

リベラリズム

リベラリズム (liberalism)

アナーキーな国際関係の中でも国家間の協調が自発的に実現する可能性を主張する考え方

古典的リベラルとしてのジョン・ロック

  • 「自然状態は基本的に平和」

現代リベラリズム「国際社会がアナーキーであることには同意するが、囚人のジレンマ的状況の前提には疑問

  • 両者はコミュニケーション不能
  • ゲームは一回限りで終了

国際レジーム論

国際レジーム (international regime)

当該問題領域における理念・規範・ルール・意思決定手続きの集合

国際レジームは取引費用の削減によりコミュニケーションを促進

  • 取引費用 (transaction cost)⋯取引にかかる費用
  • GATT体制⋯一国ずつ貿易交渉しなくても良く、紛争処理サービスも提供

将来の影論

将来の影 (shadow of the future)

自分の行動が現在だけでなく将来の相手の行動に影響を与える見込み

特定の条件で囚人のジレンマゲームを無限回繰り返すと協調が実現

  • 両者がしっぺ返し戦略 (tit-for-tat) を採用
    • 前の手番で相手が裏切ったら、以降自分も裏切りを選択し続ける
  • 両者の割引因子 (discount rate) が十分大きい
    • どれだけ長期的な利益を重視するかの度合い

→短期的に得られる利益よりも長期的に失われる利益が大 きければ協調が促進

批判理論

Think-pair-share (15分)

  1. Think (2分)
    • リアリズムとリベラリズムが共通して持っている前提を一つ考える
    • その前提は「かなり当たり前に見える」あるいは「少し怪しい気がする」と思うか考える
    • ヒント:リアリズム/リベラリズムは、国際社会の構造、利益/国益、国家の行動原理をそれぞれどのように考えている?
  2. Pair (5分)
    • ペアになり、自分の意見を共有
    • 二人は同じ/違う前提?
    • その前提は正しい/怪しい?
  3. Share (5分)
    • ペアで話し合った議論を全体に共有

批判理論

批判理論

リアリズム・リベラリズムをその前提から疑い批判する諸理論

  • コンストラクティビズム…アナーキー性への批判
  • マルクス主義…共通の利益への批判

コンストラクティビズム

コンストラクティビズム (constructivism)

アイデア、アイデンティティ、規範など観念的・認識的な要 素に注目する国際政治学上の理論

特にアナーキー性を強調するリアリズムを批判

  • アレクサンダー・ヴェント「アナーキーは国家が作り出すもの」1
  • 国際規範の間主観性 (intersubjectivity) ⋯国家の相互作用によって規範が形成

→敵対的なアナーキーもあれば友好的なアナーキーもありうる

マルクス主義

マルクス主義 (Marxism)

生産様式という下部構造が社会全体のあり方である上部構造を決定すると主張する理論体系

国際社会での「共通の利益」の存在に疑問

資本主義⋯資本家が労働者を搾取する生産様式

→現代の国際関係も資本主義を反映

従属論 (dependency theory)

中心(先進国)の発展は、周辺(途上国)の低開発と表裏一体であるとする議論

→自由貿易で得するのは先進国だけ

本日の目的と到達目標

目的

国際社会の構造的特徴を「囚人のジレンマ」として捉えた上で、国際関係論における主要なパラダイムであるリアリズムとリベラリズムを学ぶとともに、両者を批判する枠組みも知る。

到達目標

  1. 「囚人のジレンマ」とは何かを、例を使って説明できる。
  2. リアリズムとはどのようなパラダイムかを説明できる。
  3. リベラリズムとはどのようなパラダイムかを説明できる
  4. 批判理論として位置付けられる 2 つのパラダイムそれぞれの 内容を説明できる。

次回までに

事後学習

  • 授業資料を見直し、目標到達をセルフチェック
  • Moodle上でのリアクションペーパー入力(木曜日まで)