03/主権国家体制

国際政治経済I

鈴木淳平

学習院大学法学部政治学科

2026-04-27

今日の目次

  1. はじめに
  2. 主権国家体制
  3. ウェストファリア神話
  4. 主権国家体制の形成
  5. 主権国家体制の拡散
  6. まとめ

はじめに

アンケート

今日の調子はいかがですか?

  1. 良い
  2. まあまあ
  3. 悪い

前回の復習をしてきましたか?

  1. はい
  2. いいえ

先週のRPより

目標達成と推薦:

  • 6/6人が「達成目標2個以上」
  • 被推薦者3人
    • 「国際社会はアナーキーだというのは怪しいというふうに考えた視点が新しいと思いました」
    • 「コンストラクティビズムの考えに、独力で素早くたどり着いた」
    • 「自由貿易を良いとする前提を疑う視点が新しいと思いました」

先週のRPより(続)

コンストラクティビズムに関して、国家の相互作用によって敵対的規範や友好的規範が形成されるという間主観性については理解できた一方で、「アナーキーは国家が作り出すもの」という主張はまだよく分からない。

今回様々な理論を学んだが、これらの理論が机上で考え出されてから現実に当てはめられたのか、経験則から理論が生み出されたのかという点が気になった。おそらく現実に起きている事象に対して完全にそれらの理論を当てはめることはできないと思うが、もう少しタイムリーで具体的な例があると理解しやすい気がした。

相手の戦略を固定した場合、自分だけが戦略を変えても利益を得られない状態。これは、クリストファー・ブラッドマン著「戦争と交渉の経済学」の序章部分に戦争の原因五種類のうち、プラフとコミットメント問題の箇所に関連しているのではないか。

本日の目的と到達目標

目的

主権国家体制とはどのような国際システムであるのか歴史的な展開に位置付けながら学ぶとともに、その成立と拡散の過程を理論的実証的に考察する。

到達目標

  1. 主権国家体制とは何か、歴史的な2つの国際システムと比較しつつ説明できる。
  2. クラズナーによる「ウェストファリア神話」批判の内容を説明できる。
  3. スプルートの議論に基づいて、主権国家が形成される過程を描写できる。
  4. クラズナーによる「組織的偽善」論を用いて、主権国家体制が拡散する過程についての通説を批判できる。

本日の授業の位置付け

主権国家体制

主権国家体制

主権国家体制の特徴

  1. 国家は明確な領域を持つ(明確性
  2. 国家は領域内部を排他的に支配(排他性
  3. 国家同士の関係は平等で、存在を相互承認(平等性
  4. 国家の上位に立つ権力の不在(アナーキー性

歴史的な国際システム

帝国 (empire)

単一の政治的中心、単一の垂直的分業、そして多元的な文化を有する、大規模な官僚制構造1

  • ローマ帝国、古代中国、植民地帝国…
  • 中心と周辺の階層構造→平等性、アナーキー性×

封建制 (feudalism)

土地支配と軍事的奉仕の交換を中心とした政治経済システム

  • 中世ヨーロッパ(9〜15世紀)
  • 断片的な領土支配→明確性、排他性×
  • 重層的階層構造→アナーキー性、平等性×

封建制の領土支配

ウェストファリア神話

質問です

1648年に三十年戦争の講和としてウェストファリア条約が結ばれました。

ここから主権国家体制が始まったと言われますが、なぜそう言われるのでしょうか?

インターネットで調べてみてください(AIに相談でも可)。

ウェストファリア条約

Peace of Westphalia

1648年、神聖ローマ帝国を舞台にした三十年戦争の講和条約として締結

ミュンスター条約オスナブリュック条約で構成

神聖ローマ帝国内の各領邦に外交自主権を付与

→通説「主権国家体制の成立のきっかけ」

  • 主権国家体制の別名「ウェストファリア体制

クラズナーによる批判

スティーブン・クラズナー「主権国家体制はウェストファリア条約から生まれたわけではない」1

  • 外交自主権の規定は各条約で1条規定されているだけ2

  • その内容自体中世以来の焼き直し

  • 他の内容も、王位継承権や信仰に関する取り決めが多い

主権国家体制の形成

『主権国家とその競合者』

通説:戦争原因論世界システム論

ヘンドリク・スプルートによる新たな議論

  • 通説は単線論的で、主権国家への移行が運命のよう
  • 主権国家以外にも有力な政治的単位が存在
  • いくつかの優位性を持った主権国家が最終的に勝利

中世の経済成長と3つの単位

11〜14世紀、ヨーロッパで持続的な経済成長

  • 温暖化→農業生産拡大⇌人口増加
  • 結果、交易の拡大と都市の発展

交易距離と都市化の程度に応じて、地域ごとに異なる政治的単位が登場

地域 政治的単位 交易 都市化 都市の脅威
イタリア 都市国家 遠距離(香辛料) 高い 他の都市国家
北ドイツ 都市同盟 中距離(木材) 中程度 他の地域
フランス 主権国家 近距離(必需品) 低い 盗賊/封建領主

Q. なぜ主権国家だけが生き残ったのか?

主権国家の優位性

  1. 取引費用の削減経済成長
    • 都市同盟は度量衡が不統一→取引費用が高い
    • 都市国家は植民市を抑圧→経済成長しにくい
  2. ただ乗りの抑制長期的動員
    • 都市同盟は非協力的な都市(ただ乗り)を抑制できず
    • 都市国家は軍事的に強力だが、長期的動員に向かない
  3. 相互承認共存のしやすさ
    • 都市同盟はメンバーシップが曖昧
    • 都市国家は主体性はあるが領土が明確ではない

主権国家体制の拡散

拡散に関する通説

主権国家体制は西欧で生まれ世界に拡散

デイヴィッド・ストラングの議論1

  • 欧州主権国家が未知の政体と遭遇→主権国家として認知or従属化
  • 一度主権国家として認知されると従属化されにくい
  • 主権国家体制の強い規範性 cf.コンストラクティビズム

明治維新から見る通説

河野勝は通説が西欧中心主義であると批判1

明治維新をめぐる通説:

…西欧列強の会国要求は…主権国家を構築することの要請でもあった。2

「幕藩体制は主権国家体制でない」のは本当か

→クラズナー「組織的偽善」論

クラズナーの主権論

主権には四つの側面

  1. 国内的主権⋯政体を支配する能力
  2. 相互依存的主権⋯越境活動を管理する能力
  3. ウェストファリア主権⋯外国から自律して行動する能力
  4. 国際法的主権⋯外国から主権国家として認められること

Q. ソマリア、台湾、ドイツ、日本ではどれが欠けている?

「組織的偽善」と明治維新

組織的偽善 (organized hypocricy)

  • 4つの側面を完備する例はほぼない
  • それでも主権概念は存続
  • ただしその解釈は強国の都合による

幕藩体制に当てはめると…

  • そもそも幕府権力は強力で、鎖国もしていた
  • 生麦事件薩英戦争
    • 日本領土内での賠償要求と薩摩との限定戦争
    • しかし、この程度の侵害は現代でも普通

まとめ

本日の目的と到達目標

目的

主権国家体制とはどのような国際システムであるのか歴史的な展開に位置付けながら学ぶとともに、その成立と拡散の過程を理論的実証的に考察する。

到達目標

  1. 主権国家体制とは何か、歴史的な2つの国際システムと比較しつつ説明できる。
  2. クラズナーによる「ウェストファリア神話」批判の内容を説明できる。
  3. スプルートの議論に基づいて、主権国家が形成される過程を描写できる。
  4. クラズナーによる「組織化された偽善」論を用いて、主権国家体制が拡散する過程についての通説を批判できる。

次回までに

事後学習

  • 授業資料を見直し、目標到達をセルフチェック
  • Moodle上でのリアクションペーパー入力(木曜日まで)