06/貿易の経済学

国際政治経済I

鈴木淳平

学習院大学法学部政治学科

2026-05-25

今日の目次

  1. はじめに
  2. 貿易の経済学
  3. 比較優位モデル
  4. 特殊要素モデル
  5. ヘクシャー=オリーンモデル
  6. まとめ

はじめに

先週のRPより

TBD

本日の目的と到達目標

目的

比較優位モデル、特殊要素モデル、ヘクシャー=オリーンモデルという3つの経済学のモデルを学び、貿易が与える影響を理解する。

到達目標

  1. 比較優位モデルに基づいて、貿易が経済に与える影響を議論できる。
  2. 特殊要素モデルに基づいて、貿易が経済に与える影響を議論できる。
  3. ヘクシャー=オリーンモデルに基づいて、貿易が経済に与える影響を議論できる。

本日の授業の位置付け

貿易の経済学

貿易の経済学

  • 貿易が与える経済的影響を明らかにするモデル
    • 財の生産および所得分配

比較優位モデル

  • 比較優位を持つ財に特化→総生産量の増加
  • 貿易は全体的に利益

特殊要素モデル

  • 貿易は全体的に利益
  • 特殊要素を持つ人々の間で格差
    • 優位部門に得、劣位部門に損

ヘクシャー=オリーンモデル

  • 貿易は全体的に利益
  • 生産要素賦存の違いによる格差
    • 豊富要素に得、希少要素に損

比較優位モデル

比較優位モデル

デイヴィッド・リカード(1817)『経済学および課税の原理」

  • 別名「リカードモデル」

主張「自由貿易は全ての国にとって利益をもたらす」

  • 貿易の開始→比較優位財の価格上昇
  • 価格上昇→その財の生産に特化
  • 生産特化→財の総生産量増加

絶対優位と比較優位

絶対優位 (absolute advantage)

ある財を相手よりも効率的に生産できること

比較優位 (comparative advantage)

ある財を別の財よりも効率的に生産できること

効率的=より少ない資源で多くの生産ができる

例:日本と中国が労働力を生産

  • この時労働力は生産要素 (factor)という
車1台 米1t
日本 2人 4人
中国 10人 5人

Q:車/米の生産が効率的なのは日中どちらですか?

相対価格と貿易

相対価格…ある財と別の財の価格の比

  • 機会費用…その財の生産増加のためにどれくらい他の財の生産を減らすべきか
    • 日本:車1台=米0.5t、中国:車1台=米2t

貿易を開始すると…

  • 中国車よりも日本車の方が安い
  • 日本車の購入増→日本車の価格上昇
  • 米では上記と逆が発生
    • 中国米の価格上昇
  • →相対価格は車1台=米0.5-2tあたり

貿易は比較優位財の相対価格を上昇させる

質問

あなたは日本の労働者です。

貿易が開始された結果、車が米に対して高くなりました。

その気があればどちらでも働けるとして、自動車工場と米農家のどちらで働きたいですか?

相対価格と特化

仮定:

  • 労働者の移動は完全自由
  • 価格=労働者の賃金

各国は相対価格が上昇した財(=比較優位財)に特化

日本に特化

  1. 価格:車>米
  2. 賃金:車産業>米農業
  3. 労働:米から車へ

中国に特化

  1. 価格:車<米
  2. 賃金:車産業<米農業
  3. 労働:車から米へ

生産可能性フロンティア

Production Possibility Frontier (PPF)

  1. 特化前の車と米それぞれの日中総生産量は?
  2. 各国の特化後の点はPPF上のどこ?
  3. 特化後の車と米それぞれの日中総生産量は?

消費可能性フロンティア

Consumption Possibility Frontier (CPF)

特化の結果、総生産量(=消費可能性)が増えている!

特殊要素モデル

特殊要素モデル

ジェイコブ・ヴァイナーがリカードモデルを拡張

  • 別名「リカード=ヴァイナーモデル」

主張「貿易は全体的には得だが、不平等な所得分配を生み出す」

  • 生産要素は労働だけではない
  • 部門間を移動できない特殊要素の存在
  • 相対価格の変化→生産要素所得の変化
  • 貿易の開始→所得格差の発生
    • 比較優位部門と比較劣位部門

2財3要素モデル

ドイツが以下の状況にあるとする

  • 財:農作物
    • 比較優位は
  • 生産要素:労働資本土地
農作物
労働 一般要素
資本 × 特殊要素
土地 × 特殊要素
  • 一般要素…部門間を移動できる生産要素
  • 特殊要素…部門間を移動できない生産要素

生産者の行動

生産者はそれぞれ布と農作物を生産

  • 利潤=売り上げ-費用→最大化
    • 売り上げ=価格×生産量
    • 費用=賃金・利子・地代

収穫逓減 (diminishing returns)

貿易の開始

貿易を開始すると…

  • 布の相対価格上昇
  • 生産者はの増産/農作物の減産
    • リカードモデルの特化と同じ
    • 特化による総生産増が実現

Q. 労働者の賃金資本家の利子地主の地代はどうなる?

貿易の開始(続)

労働者(一般要素)…影響不明

  • 布生産に移動
  • 名目賃金の上昇
    • ただし収穫逓減→価格上昇ほどでない
  • 実質賃金
    • 布で測ったら下落
    • 農作物で測ったら上昇

資本家(特殊要素)…得をする

  • 移動しない
  • 名目利子の上昇
  • 実質利子の上昇
    • 布で測ったら賃金下落

地主(特殊要素)…損をする

  • 移動しない
  • 名目地代の上昇
  • 実質地代の上昇
    • 農作物で測ったら賃金下落

ヘクシャー=オリーンモデル

ヘクシャー=オリーンモデル

エリ・ヘクシャーベルティル・オリーンが考案

主張「貿易は全体的には得だが、不平等な所得分配を生み出す」

  • 全ての生産要素は長期的には移動可能
  • 財の生産に使う生産要素の配合に違い
  • 生産要素賦存→貿易パターン
  • 貿易の開始→所得格差の発生
    • 豊富生産要素と希少生産要素

2-2-2モデル

国:ドイツフランス

財:食品

生産要素:労働資本

労働集約財 労働>資本
資本 資本集約財 労働<資本

集約性…相対的にどちらの生産要素を使うか

生産要素賦存 (factor endowment)…相対的にどちらの生産要素が豊富か

  • ドイツ…労働が豊富
  • フランス…資本が豊富

Q: ドイツとフランスはそれぞれ布と食品どちらが得意?

貿易の開始

貿易を開始すると…

  • ドイツ…布に比較優位→相対価格の増加→布の輸出
  • フランス…食品に比較優位→相対価格の増加→食品の輸出

リカードモデルの特化と同様→総生産量の増加

ヘクシャー=オリーン定理

各国は自国に豊富な生産要素を集約的に用いる財を輸出し、希少な生産要素を集約的に用いる財を輸入する

特化の影響

  • ドイツ…布への特化→労働需要の増加→賃金上昇
  • フランス…食品への特化→資本需要の増加→利子上昇

ストルパー=サミュエルソン定理

貿易の開始は、各国に豊富にある生産要素の価格を上昇させる一方希少な生産要素の価格を下落させる

質問

Q. 基本的には先進国は資本が、途上国は労働が豊富です

  1. 先進国と途上国の比較優位財はなんですか
  2. 先進国と途上国で貿易が行われた場合、それぞれどのような人々が「勝ち組」になりますか

エレファントカーブ

まとめ

本日の目的と到達目標

目的

比較優位モデル、特殊要素モデル、ヘクシャー=オリーンモデルという3つの経済学のモデルを学び、貿易が与える影響を理解する。

到達目標

  1. 比較優位モデルに基づいて、貿易が経済に与える影響を議論できる。
  2. 特殊要素モデルに基づいて、貿易が経済に与える影響を議論できる。
  3. ヘクシャー=オリーンモデルに基づいて、貿易が経済に与える影響を議論できる。

次回までに

事後学習

  • 授業資料を見直し、目標到達をセルフチェック
  • Moodle上でのリアクションペーパー入力(木曜日まで)